(構造生命科学ニュースウオッチ2016/03/22から転載)

  • [出典]曽我部祐里(Yuri Sogabe)et al. "A crucial role of Cys218 in configuring an unprecedented auto-inhibition form of MAP2K7." Biochem. Biophys. Res. Commun. Published online 2016 Mar 15.
  • 分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼキナーゼ7(Mitogen-activated protein kinase kinase 7、 MAP2K7)は、c-Jun N末端キナーゼ(c-jun N-terminal kinase、JNK)シグナルに不可欠なキナーゼであり(挿入ネットワーク図参照)、36010001
    リン酸化を介して厳密に制御されている.MAP2K7はまた、関節炎、肝細胞がん、心肥大などの疾患の創薬ターゲット候補であるが、他のMAP2Ksに対する選択性が低い.これは、構造上の相同性(特にATP結合サイトの相同性)が高いためである.
  • 近年、MAP2K1阻害剤として、自己阻害型のアロステリックサイトに結合する低分子が同定され、さらに、MAP2Ksの自己阻害の機構は多様であることが明らかになってきた.そこで、MAP2K7について、リン酸化されていない不活性状態の制御機構を探ることを目的として、MAP2K7の野生型とC218S変異型のX線結晶構造解析を行った. 
  • 野生型のアポ構造はATP結合サイトが塞がれた新奇な自己阻害型をしていた.
  • この閉構造は、MAP2Kファミリー・キナーゼの間で保存されていない残基Csy218のn-σ*相互作用とグリシン・リッチなループ内のGly145で形作られていた.すなわち、グリシン・リッチループがATP結合サイトに入り込んでいた.
  • 野生型に存在した自己阻害型コンフォメーションはATPアナログ(10 mMのAMPPCP)の存在下でも変化しなかった.
  • C218S変異によってグリシン・リッチループがATP結合サイトから解放され、活性化の方向へのコンフォメーション変化は起きたが、酵素の活性化には不十分であり、自己阻害型であった.
  • 今回明らかになったMAP2K7自己阻害型モードは、他のMAP2Ksの自己阻害型モードとは明確に異なることから、選択性が高いMAP2K阻害剤の手がかりとなる.
  • [構造]5B2K: Wild -type(分解能 2.75 Å)5B2N: Wild-type in the presence of AMPPCP(分解能 3.05 Å)5B2L: C218S in the presence of AMPPCP(分解能 2.1 Å)