[出典]
- Zhou H, ~ Huang P, Yang H. "In vivo simultaneous transcriptional activation of multiple genes in the brain using CRISPR–dCas9-activator transgenic mice" Nat Neurosci. 2018 Jan 15.
[背景]
- CRISPR-dCas9に基づくCRISPRi/CRISPRaにより複数の遺伝子座を標的とする転写抑制/活性化が可能になったが、in vivoに展開するには、サイズの大きな転写活性化因子の送達効率と転写活性化システムの安定性の問題が障害となっていた。
[新規転写活性化因子SPH]
- 上海科技大学と上海生命科学研究院の研究チームは今回、CRISPRaの手法の一種SunTagで利用されていた転写活性化因子VP64を、同じくCRISPRaの手法の一種であるSAM法に組み込まれていた p65-HSF1に置換したSunTag-p65-HSF1を転写活性化因子としてdCas9に融合したプラットフォームSPHを開発した。
- SPHは、ヒト胎児腎細胞由来HEK293T細胞株とマウス神経芽細胞腫由来N2a細胞株および初代アストロ細胞で、いわゆる第二世代の遺伝子転写活性化プラットフォーム(VP64; SunTag; SAM; VPR)よりも強力であることを確認した。
[送達問題]
- Cre依存性SPHトランスジェニックマウスを作出することで、生体内へのプラットフォーム送達問題を解決。HAタグを付したdCas9に、SunTag法に倣って10連のGCN4を融合し、それらにp65-HSF1とEGFPをそれぞれP2AとT2Aを介して融合。このコンストラクト上流(dCas9の上流)にCAGプロモーターとloxP-stop-loxP(LSL)カッセットを配置したSPHベクターを、piggyBacトランスポゾンを利用して、このコンストラクトを形質転換したトランスジェニックマウス(以下、SPHマウス)を作出。LSLカセットの存在により、in vivoでのSPH発現をCreで調節。
[初代細胞とin vivoでのSPH評価]
- SPHマウス由来のアストロサイト初代細胞で、神経遺伝子転写因子Ascl1とNeurog2を標的とするU6-sgRNA-Ef1a-Cre-2A-mCherryをレンチウイルスで送達することで遺伝子発現上方制御を確認。さらに、神経繊維芽初代細胞において、10種類の神経遺伝子と4種類lncRNAsそれぞれと、10遺伝子と1 lncRNAの同時転写活性化を確認。
- 成体マウス肝臓に、ハイドロダイナミック法でsgRNAプラスミドを注入することで、in vitroと同様に10遺伝子と1 lncRNAの転写活性化を実現。
- また、WntアンタゴニストをコードするDkk1遺伝子の転写活性化を介して、肝細胞が肝小葉内の位置に依存して異なる代謝能を示す'metabolic zonation'がリモデルされ、Wnt/β-カテニン経路下流の肝小葉中心静脈周囲遺伝子(pericentral gene)を不活性化されることも見出した。
[SPHマウスによる神経科学]
- SPH;GFAP-Creのダブル-トランスジェニックマウスを作出し、神経細胞の発生・分化に関わる転写因子3種類(ANN:Ascl1; Neurog2; Neurod1)を標的とするsgRNAsをAAVを介してそのアストロサイトに送達し、アストロサイトが活性な神経細胞へと分化することをin vivoで確認した。
- SPHマウス脳にsgRNAsのアレイを送達することで、in vivoで8種類の遺伝子と2種類のlncRNAsを同時に上方制御が可能なことも確認した。
- SPHマウスは神経科学に限らず、広く一般に機能獲得型変異の研究の有用である。
[dCas9による転写活性化に関連する文献とcrisp_bioブログ記事]
- 2017/12/08 dCas9によりDSBを回避する第2世代遺伝子活性化法を改変し、マウスin vivoでの標的遺伝子活性化と病態改善を実現
- 第2世代転写活性化因子の比較 Figure 1 Initial tests of all second-generation activators on endogenous genes in HEK293T cells; Chavez A, ~ Church G. "Initial tests of all second-generation activators on endogenous genes in HEK293T cells" Nat Methods. 2016 Jul;13(7):563-567.
- Black JB, ~ Gersbach CA. "Targeted Epigenetic Remodeling of Endogenous Loci by CRISPR/Cas9-Based Transcriptional Activators Directly Converts Fibroblasts to Neuronal Cells" Cell Stem Cell. 2016 Sep 1;19(3):406-14.
- 2017/04/20(2016/05/25) 遺伝子発現活性化にはVPR, SAMまたはSunTagの三択
- 2017/06/01(2015/02/09) CRISPR技術におけるガイドRNAを拡張して、複数遺伝子の転写を同時にそれぞれに制御する転写プログラムの設計を可能にした。
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