出典
エクソソーム
  • エクソソームは、各種の正常細胞や癌細胞から分泌される脂質二重膜に囲まれた不均質なナノスケールの小胞であり、細胞間コミュニケーションを担い、腫瘍細胞由来エクソソームは癌の悪性化や転移に関わるとされ、バイオマーカや治療標的として注目を集めている。PubMedによれば2017年にexosomes関連論文が1,794報刊行されている(2018/02/28時点)。
細胞から分泌されるナノ粒子3種類、Exo-L, Exo-Sそして'exomere'を同定
  • David Lyden (Weill Cornell Medicine)を始めとする国際研究チームは今回、非対称流フィールドフローフラクショネーション(Asymmetrical flow field-flow fractionation (AF4);下図参照)法により、25種類のマウスまたはヒトのメラノーマ、膵臓癌、結腸腺癌、非小細胞肺がん、前立腺癌、乳癌、白血病由来細胞株およびNIH3T3細胞とET2B細胞の計27種類の細胞からの分泌ナノ粒子を分画・測定し、いくつかの細胞については透過電顕解析で検証した。AF4
  • その結果、脂質二重膜に囲まれていない大量のナノ粒子(サイズ 〜35 nm)も細胞から分泌されることを見出してこれを'exomere'と命名した。また、エクソソームが、サイズ90-120 nmの大きなエクソソーム(Exo-L)とサイズ60-80 nmと小さなエクソソーム(Exo-S)の2種類のサブセットに分類できることを明らかにした。
細胞分泌ナノ・マイクロ粒子の概要
  • Lyden論文をハイライトしたUSLAのAndries ZijlstraとDolores Di VizioのNews & Viewsでは、細胞から分泌され細胞間コミュニケーションを担うナノ粒子〜マイクロ粒子のクラスとして、exomere、Exo-S、Exo-L、微小小胞体/microvesicle(1000 nm以下)、exopher(~4μm)、migrosome(1 μm以上)およびラージ・オンコソーム/Large oncosome(1~10 μm)を挙げ、それぞれのクラスのカーゴの発生源と生合成機構を図にまとめ、エクソソーム以外の生成過程の解明が進んでいないとした(News & Views Fig. 1)。
3ナノ粒子の生物物理学的特性
  • 平均表面電荷:Exo-L (−12.3 mV ~ −16.0 mV) ;Exo-S (−9.0 mV ~ −12.3 mV) ;exomere (−2.7 mV ~ −9.7 mV)
  • 剛性 (AFM測定):exhumer (~145–816 MPa);Exo-S  (~70–420 MPa);Exo-L (~26–73 MPa)
3ナノ粒子はサイズを異にするだけでなく、カーゴ(核酸、脂質、グリカン、タンパク質)を異にする
  • ラベルフリーMSによりマウスメラノーマ株B16-F10、マウス膵臓癌細胞株Pan02、マウス乳癌細胞株4T1、ヒト膵臓腺癌株AsPC-1およびヒト乳癌細胞株MDA-MB-231-4175のプロテオーム解析し、exomere、Exo-SおよびExo-Lについて、それぞれ、165-483種類、433-1,004種類、247-1,127種類のタンパク質を同定し、また、ナノ粒子それぞれに特有なタンパク質を同定。
  • ECRT複合体の構成因子がExo-S/Lにはエンリッチされていたが、exomereにはほとんど見られなかった。Exo-SとExo-Lの間にも差異はあり、Exo-Sにはエンドソーム、多胞体、液胞、貪食胞のタンパク質がエンリッチされ、
  • Exo-Lには細胞膜、細胞間接着/結合、後期エンドソーム、トランス・ゴルジ網のタンパク質がエンリッチされていた。
  • Exomerには、特に代謝系(中でも、解糖系とmTORC1代謝パスウエイ)に関与するタンパク質がエンリッチされており、また、低酸素症・微小管および凝固系に関するタンパク質、およびExo-SとExo-Lには見られない類の脂質がエンリッチされていた。
  • エクソソームに特異なマーカとしてされてきたフロチリン/flotillins、CD9, CD63, CD81, Alix1、Tsg101、HSC70(HSPA8)およびHsp90の発現を比較した結果、フロチリンのFLOT1とFLOT2がExo-Sのマーカであり、HSP90AB1が比較的exomereと相関し、また、CD9/CD63/CD81がいずれもExo-S/Lと相関するがその発現パターンが細胞型とExo-SかExo-L如何に依存することを見出した。
  • マウスメラノーマ、ヒト膵臓腺癌株およびヒト乳癌細胞株については、N-結合型グリコシル化のプロファイリングと脂質組成、核酸のプロファイリングも行った。その結果、N-グリコシル化の組成と構造のナノ粒子依存性、脂質量の細胞型依存性と組成のナノ粒子依存性、核酸(RNA/DNA)の量やサイズの細胞型とナノ粒子への依存性を同定した。
3粒子の生体内分布
  • マウスメラノーマ由来ナノ粒子の生体内分布をマウスin vivoで分析した。エクソマーもexmeresも造血組織(肝臓、脾臓および骨髄)に取り込まれるが、Exo-Lはリンパ節向性を示し、exmeresは主として肝臓に取り込まれることから、Exo-Lが癌の転移にかかわり、exmeresが癌進行時に肝臓における代謝のリプログラミングに関与することを、著者らは示唆した。