[出典] "Evolved Cas9 variants with broad PAM compatibility and high DNA specificity" Hu JH, ~ Liu DR. Nature. 2018 Feb 28.
- Broad研のDavid R. Liuらは2011年に発表した研究室内での迅速定向進化システムPACE (phage-assisted continuous evolution; 下図参照)を利用して、
NGGをPAMとするSpCas9からNG、GAAおよびGATをPAMとするSpCas9変異体' (expanded PAM SpCas9 variant)'の作出に成功しこれをxCas9と命名した。Cas9の中でxCas9は哺乳類細胞において最も広範なPAM配列を認識する。
- HEK293T細胞において、不活性化xCas9を利用したdxCas9-VPRによる転写活性化およびxCas9によるゲノムDNA切断活性は、dCas9-VPRとCas9を凌いだ。また、BE3またはABEによるシチジンまたはアデニンの編集効率においても、ClinVarデータベースのSNPsを標的として、BE3でCas9の26%から73%へ、ABEで28%から71%へと編集可能対象SNPsが増加した (xCas9に基づくBE3をxBE3と表記する後出論文あり)。
- また、HEK293T細胞とU2OS細胞におけるNGG PAMサイトを標的とするオンターゲット/オフターゲット編集をGUIDE-seqで判定したところ、野生型Cas9よりも精度が大幅に向上した。すなわち、オフターゲット編集が、HEK293T細胞とU2OS細胞とでそれぞれ〜100分の1と〜43分の1まで抑制された。具体的には例えば、HEK293T細胞のEMX1を標的とした場合、Cas9のオンターゲット/オフターゲット編集のリード数が5,649/1,132であったのに対して、xCas9では6,874/-であった。NGG PAM以外のサイトについては、HEK293T細胞のGAA PAMとCGT PAMのサイトに対してCas9は作用せず、xCas9のオンターゲット編集が3,627/3,627リードであったのに対してオフターゲットは検出限界未満であった。
- xCas9によって、Cas9の編集効率、PAM適合性、および標的特異性(オフターゲット回避)のトレードオフに煩わされることがなくなった言える。また、Cas9と同様にバクテリアの小型ゲノムにおいて適合進化してきた他のCRISPRエンドヌクレアーゼについても、戦略的な変異導入や定向進化による改変により、動植物・ヒト細胞における性能を向上さることがまだまだ可能であろう。
その後のxCas9関連crisp_bio記事
- 2019-08-12 xCas9をベースとすることで、CBEとABEの編集効率を改善
- CRISPRメモ_2019/05/17-2 [第6項] PAMを拡張したxCas9(*1)とSpCas9-NG(*2)によるシロイヌナズナへの変異誘導を検証
- 2019-01-25 SpyCas9の高精度な変異体‘xCas9’の構造基盤
- CRISPRメモ_2018/12/16 [第2項] PAMを拡張したxCas9によるイネゲノム編集
- 2019-01-02 ゲノム・エピゲノム工学を加速するクローニングプラットフォームpMVP・pMAGIC
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