出典
背景
  • dCas9と蛍光分子を組み合せることでゲノム遺伝子座の可視化が可能になったが標的遺伝子座に多数の蛍光分子を結合させる必要がある。このため、標的細胞に多数のgRNAsを一様に送達する手段がない限り、可視化は実際には反復配列が存在するゲノム領域に限られる。 
  • スタンフォード大学のJoanna Wysockらは今回、多数のsgRNAsを単一ベクターで送達可能とするCARGO (chimeric array of gRNA oligonucleotides)法を開発し、反復配列が存在しないシスエレメントの可視化を実現し、マウスES細胞 (mESCs)が、胚盤葉上層様細胞 (mEpiLCs: epiblast-like cells)まで分化する過程におけるエンハンサーとプロモーターの局在と動きをリアルタイムで追跡した。
CARGO法
  • 複数のgRNAsのi番目のgRNAの前半とi+1番目のgRNAの後半をそれぞれの突出末端を介しBpiI制限酵素切断部位を挟んで融合したハイブリッドDNAオリゴヌクレオチドとgRNAスキャフォールド、Pol Ⅲ終結シグナルおよびヒトU6プロモーターからなる定常配列とライゲーションしてミニサークル化し、続いて多種類のミニサークルをBpiIで切断して線状にし、突出末端を介して全長を回復したgRNAsをワンポット反応で送達ベクターに組み込む(原著論文 Fig. 1参照).
シスエレメントによる転写調節の新モデル'stirring model'提唱
  • シスエレメントは転写が進行していない状態では全てサブ拡散的 (subdiffusive)に振る舞うが、転写が始まった遺伝子のシスエレメントは相対的な運動性が向上する。この向上はRNA Pol Ⅱの活性を遮断すると逆転する。
  • 著者らは、熱運動に依存するサブ拡散で特徴付けられる基底状態 (slow)から、RNA Pol IIそしてまたはそれに相関するATPアーゼがもたらす非熱性刺激により運動性向上(fast)へと向かうことで、転写とシスエレメントが共役するに至り、トポロジカル関連ドメイン(TAD)のような染色体の3次元ドメインの半径が比較的安定していると仮定して、転写と共役して遠位のエンハンサーと近位のプロモーターがより頻繁に接触するモデル'stirring model'を提唱した(原著論文 Fig. 4E参照)
  • このモデルは、「転写開始 -> エンハンサーとプロモーターの接触高頻度へ -> 転写亢進」のポジティブフィードバックが起こることを意味し、エンハンサーとプロモーターが安定なループを形成して転写を制御するモデルとは異なる動的なモデルである。