出典
背景
  • 細胞には、P-body (日本語/英語)、パラスペックル (paraspeckle; 下図参照)paraspeckle
    およびストレス顆粒 (SG:stress granule)のように膜を持たない凝集体が刺激に応じ凝集と分解を繰り返す現象、液-液・相分離 (liquid-liquid phase separation)、が起きている。この相分離は~100倍以上の濃度へと凝集可能な互いに多価相互作用をする生体高分子が示す特性であるが、その多くが、RNA/DNAに結合し、一般的なアミノ酸出現頻度を超える頻度で同一アミノ酸が出現する'低複雑度領域 (LCD:low complexity domain)'を帯びたタンパク質である。例えば、SGに関連するhnRNP(heterogeneous nuclear ribonucleoprotein)A1/A2およびFUSは、液-液・相分離を起こし、時間経過あるいは高濃度で半固体相ヒドロゲルへと可逆的に遷移するLCDsを帯びている。
  • 電顕とX線回折による解析からそれぞれヒドロゲルがタンパク質繊維 (fibrils)を含みクロスβ構造(繊維軸に垂直なβストランドが繊維軸方向に積み重なった構造)を取ることが明らかにされている。その中で、FUSヒドロゲルは熱と界面活性剤SDSに感受性を示すが、アミロイド繊維は加熱やSDSに耐性を示す。アミロイド繊維 (Aβ繊維)は、向かい合うβシートの側鎖が互いに密に組み合った立体ジッパー (steric zipper) 構造(Aβ-NKGAII構造;関連ブログ記事「Aβ42アミロイド線維のNMR原子分解能構造」)を取ることが明らかにされたが、FUSなどヒドロゲルを形成するβシート間の相互作用の分子機構は詳らかにされていなかった。
  • [注]液-液・相分離およびヒドロゲル関連論文例:"Tau protein liquid-liquid phase separation can initiate tau aggregation" Wegmann S et al. EMBO J. 2018 Feb 22.;「試験管内におけるRNA粒子の形成」加藤昌人・Steven L. McKnight. ライフサイエンス新着論文レビュー. 2012年6月8日
可逆的ヒドロゲルを形成するクロスβ構造モチーフLARKS
  • David S. Eisenbergが率いるUCLAチームは今回X線粉体回折法により、ヒドロゲルを形成するFUS、hnRNPA1およびヌクレオポロン (nucleoporin) nup98が、Aβ繊維に対して独特なクロスβ構造を取ることを明らかにし、この構造をもたらすペプチド・モチーフをLARKS (low-complexity, aromatic-rich, kinked segment)と命名した (原論文 Fig. 1 Structures of LARKS compared to a steric zipper)。
  • LARKSを帯びたβシートはグリシンまたは芳香族残基でキンクし、Aβ鎖とは対照的にペアを構成するβシートの側鎖が互いに外側を向き、弱い相互作用がもたらされている。コンピュータシミュレーションによっても、繊維を引き離すに必要なエネルギーがAβ側鎖の3分の1程度であった。また、この弱い相互作用はゲル化に多数のLARKSが必要なことを示唆し、ゲル化の濃度依存性と整合する。
  • 今回同定したモチーフをもとにしたヒト・プロテオーム20,120配列を3次元プロファイリングすることで、LCDsを帯びたタンパク質5,867種類を見出し、その中でLARKSを多数含むタンパク質400種類の中でDNA結合/RNA結合タンパク質ががそれぞれ16%/17%占めることなど、UniProtアノテーションに基づいて同定した (原論文 Fig.4)。