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論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

ヒト細胞株とマウス神経初代培養細胞におけるCRISPR-Casスクリーンによって、
C9ORF72ジペプチド-リピート-タンパク質の毒性を調節する因子群を同定


出典
背景
  • C9ORF72遺伝子の6塩基 (GGGGCC)リピートの異常な伸長は、2011年に染色体9p21に関連する筋萎縮性側索硬化症(ALS) と前頭側頭型認知症(FTD)の病因変異と同定され、現在、ALS/FTDで最も高頻度な変異とされているが、発症に至る機序は詳らかにされていない。これまで酵母ショウジョウバエにおけるC9ORF72遺伝子の調節因子スクリーンに関わってきたスタンドフォード大学の Aaron D. Gitlerの研究チームは、同じくスタンフォード大学のMichael C. BassikやUSCのJustin K. Ichidaの研究チームと共同で今回、CRISPR-Cas9によるノックアウトスクリーンによって、C9ORF72調節因子群を同定し、その中で、TMX2が創薬標的となり得る調節因子であることを示した。
  • C9ORF72遺伝子の6塩基リピートは非翻訳領域に位置しているが、開始コドンATGを必要としない翻訳(repeat-associated non-ATG-initiated translation, RANT)を介して、ジペプチド(GlyAla(GA); GlyArg(GR); GlyPro(GP))リピート (dipeptide-repeat: DPR)タンパク質を生成する。このDPRタンパク質が凝集し神経変性を誘導すると見られている。
ヒト細胞株でのスクリーン
  • 研究チームは始めに、培養液に加えたDPRs (特に毒性が高いとされるPR20とGR20を合成)をヒト慢性骨髄性白血病由来細胞株K562が吸収し細胞死に至ることを確認し、プール型sgRNAsライブラリー(〜20,500ヒト遺伝子を標的とする1遺伝子あたり10のsgRNAsライブラリーとネガティブコントロール用の〜10,000sgRNAs)を利用したゲノムワイド・ノックアウト・スクリーンにより、K562をDPRsから保護する遺伝子、DPRsに対する感受性を高める遺伝子、DPRsに対してニュートラルな遺伝子を選別し、PR20/GR20に対して統計的に有意な調節因子を、それぞれ、215/387種類同定した。双方の結果は相関しPR20とGR20の毒性の機序が共通することが示唆された。
  • PR20スクリーン由来の215遺伝子を個々にノックアウトした細胞と野生型細胞を競合増殖アッセイし、モデル動物で同定されていた核輸送因子およびPR/GRに結合するRNA結合因子や患者の脳において機能不全を起こしているRNAスプライシング因子など関連が示唆されていた因子の他に、新奇因子を同定した:TMX2CANXなどの小胞体タンパク質、小胞体膜タンパク質複合体 (EMC)構成するほとんどのタンパク質、ERストレスにより上方制御されまた小胞体関連分解 (ERAD)に関与する複合体、およびプロテアソーム・サブユニット;クロマチン修飾因子や転写調節因子
マウス初代培養神経細胞での検証
  • レンチウイルスで PR50を発現させた細胞と、細胞外から合成PR20を導入したマウス初代培養神経細胞において、K562細胞におけるPR20スクリーンから選別した〜200遺伝子を対象とするプール型sgRNAsライブラリーを利用することで、マウス初代培養神経細胞においてDPRs毒性を調節する因子を同定した。細胞外から導入したPR20スクリーンに対して上位にヒットしたエンドサイトーシスに関与するRab7aはPR50スクリーンではヒットしなかったが、細胞内発現させたPR50に対して上位でヒットした核と小胞体に局在するタンパク質の中でその代表の小胞体内チオレドキシン・タンパク質遺伝子TMX2PR20スクリーンでも同定された。
DPRsの毒性とERストレスの相関
  • DPRsに対する調節因子として小胞体の機能やストレスに関与する因子が多数含まれることから、DPRsの蓄積がERストレス応答を誘導する仮説をたて、PR50またはGFPを発現させたマウス初代培養神経細胞のトランスクリプトーム解析と、K562細胞株におけるERストレス応答を阻害する低分子投与の効果の解析から、その仮説の裏付けを得た。
  • C9ORF72の病原性へのERストレスの関与は、ALS患者脳組織のトランスクリプトミクス、ALS/FTD患者由来iPSCから誘導した運動ニューロンにおけるERストレスの同定などの報告も示唆するところである。
TMX2
  • プール型CRISPRスクリーンで強い調節作用を示した遺伝子の一種であるTMX2を標的とするsgRNAsが、K562細胞およびCas9発現マウスから培養した初代神経細胞で、TMX2をノックアウトすること、および、TMX2レベルの低減がC9ORF72 DPRの毒性を顕著に抑制することを確認。
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