出典
  • "[NEWS AND VIEWS]A trio of ion channels takes the heat" Hill RZ,  Bautista DM. Nature. 14 March 2018;"A TRP channel trio mediates acute noxious heat sensing"  Vandewauw I, ~ Vriens J,  Voets T. Nature. 14 March 2018.

背景
  • 哺乳類は皮膚に分布する熱感受性ニューロンを介して、火傷を負うことなく心地よい暖かなスポットを無意識に探り当てる。熱感受性ニューロンは、熱傷を生じるような熱さ (傷害性熱)を感知して回避行動を誘起する。これまでに感覚ニューロンにおける熱 (温度)センサーとして、TPR (transient receptor potential)ファミリーに属する一群のイオンチャネルが同定されてきたが、哺乳類に傷害性熱による痛覚発生をもたらすTPR(s)は定かではなかった。ルーベン大学のIne Vandewauwらは今回、TRPV1とTRPM3に加えてTRPA1のTRPチャネル・トリオの協働を介して、マウスが傷害性熱を回避することを明らかにした。
  • 1997年に初めて同定された温度感受性TRPチャネルTRPV1 (カプサイシン受容体) の活性化閾値は43°Cであり、傷害や炎症後の熱性痛覚を担うとされていたが、一方で、TRPV1を欠損したマウスが傷害性熱に対する応答性を失うことは無かった。また、TRPM3も傷害性熱により活性化する温度感受性TRPチャネルであるが、TRPM3欠損マウスもまた傷害性熱に対する応答性を失うことは無かった。
TRPV1とTRPM3
  • TRPV1とTRPM3を双方とも欠損した二重変異マウスは、どちらか一方の欠損マウスと同様に、熱痛覚を回避する行動をある程度維持した。
  • TRPV1とTRPM3に加えてTRPA1 (ワサビ由来アリルイソチオシアネート受容体)を欠損した三重変異マウスは、侵襲性熱に対して回避行動を全く示さなかった。
TRPA1
  • TRPA1はこれまでマウスにおいて炎症性痛覚やかゆみと関与することが知られていたが、今回、TRPA1がTRPV1とTRPM3を正常発現しているマウス熱応答性感覚ニューロンにおいて発現していることが同定された。
  • TRPA1については、ガラガラヘビやショウジョウバエなどの哺乳類以外の生物では熱センサーとして機能する一方で、TRPA1を欠損したマウスでも傷害性熱を回避することが知られていたことから、これまで、TRPA1はマウスの熱センサーと見られていなかった。
  • 非哺乳類のTRPA1において熱応答性に関与するアミノ末端に位置するアンキリンリピートとマウスTRPA1のそれは異なる。このためマウスTRPA1は通常の状態では熱応答性を示さない。一方で、マウスTRPA1は、アンキリンリピートの隣接するシステイン3残基の酸化を介して、炎症分子で活性化される。そこで、Vandewauwは、これらの残基の酸化によって、TRPA1が熱センサーとして機能すると考えた。
  • 実際に、TRPV1とTRPM3を欠損しTRPA1を発現する感覚ニューロンを過酸化水素に晒すとTRPA1がin vitroで酸化され、感覚ニューロンが熱により活性化されることを見出し、酸化が熱センターとして機能する十分条件であることを確認した。ただし、in vivoでTRPA1が酸化される生理機構の解明はこれからである。
三重変異体の意外な振る舞い
  • TPRチャネル・トリオを欠損したマウスは傷害性熱の回避行動を示さなくなるが、傷害性の高温 (45 °C)環境よりも暖かな温度 (30 °C)環境を選択する。したがって、'warm sensing'の分子機構の議論は続く。