crisp_bio

論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

1. Salk研報告 (Cas13d;CasRx)

[出典] "
Transcriptome Engineering with RNA-Targeting Type VI-D CRISPR Effectors" Konermann S, Lotfy P, Brideau NJ, Oki J, Shokhirev MN, Hsu PD. Cell. March 15, 2018. Accepted 2018/02/14;Received in revised form 2018/01/31;Received 2017/12/22.
  • RNAを標的とするCRISPR Casのin silico探索 (1):NCBI WGSデータベースの原核生物ゲノムアッセンブリー配列とスキャフォールド配列に、de novo CRISPRアレル検出アルゴリグムを適用し、21,175種類のCRISPRアレイ候補を同定;それぞれに隣接する20 kbのゲノムDNA配列を抽出;タンパク質をコードする遺伝子を予測した上で、Cas12aやCas13aなど既知のクラス2エフェクター・ファミリーを配列長などから絞り込み;クラスター分析により候補タンパク質を408ファミリーに分類;
  • RNAを標的とするCRISPR Casのin silico探索 (2):さらに、408ファミリーに相同なタンパク質配列をNCBIの非冗長タンパク質データベースから抽出し、CRISPRアレイから20 kbの領域に存在する条件で絞り込み;既知のCas13bシステムを含む候補タンパク質の中で、2つのHEPNリボヌクレアーゼ・モチーフを含み、これまでで最小 (∼930 aa)の新奇クラス2 CRISPR Casを同定;このエフェクターは、2つのRxxxxH HEPNモチーフ以外に既知のCas13エフェクター(Cas13a ~ 1,250 aa;Cas13b ~ 1,250 aa;Cas13c ~ 1,120 a)と有意な配列類似性を示さず進化系統樹上も明確に分岐していることから、タイプ VI Cas13d (タイプ VI-D )と命名
  • CRISPR-Cas13dファミリー :CRISPR-Cas13dシステムは腸内菌叢由来であったことから、マイクロバイオーム解析の結果が集積された公的メタゲノム配列に対するアライメントによりCas13dファミリの拡大を図り、Cas13dのサブファミリー群を同定し、サブファミリーに属するアッセンブリーから改めてゲノムDNAサンプルを獲得してエフェクター全長配列をシーケンシングした。Cas13d CRISPR遺伝子座は多様であるが多くがグラム陰性腸内細菌Ruminococcus属のクラスターに分類され、また、一部のメタゲノム由来エフェクターを除いて、CRISPR遺伝子座内にスペーサー獲得エフェクターCas1が存在しなかった。
  • CasRxCas13dのサブファミリーからの7種類のオーソログをヒトに向けてコドン最適化し、HEK293FT細胞で活性を評価し、最も高い活性を示したRuminococcus flavefaciens strain XPD3002由来のCas13dを同定しCasRxと命名した。
  • 転写産物のノックダウン実験:一連のCas (Cas9; Cas13a; Cas13b) およびshRNAに優る効率を示した。また、RNAiでは特にオフターゲット編集が問題になるが、CasRxにオフターゲット編集は見られなかった。
  • dCasRx:Cas9を失活させたdCas9はDNAを切断することなくDNA操作を可能とした。今回、CasRxを失活させたdCasRxはRNAを切断することなくRNAを操作するツールとして利用可能なことが示された。具体的には、小型であることを活かしてAAVによる送達でニューロンにおけるスプライシングを制御した:前頭側頭型認知症 (FTD)患者由来のiPSCから分化させた皮質ニューロンに、mRNA前駆体におけるシスエレメント(3'-スプライス部位/受容部位など)を標的とするdCas9のAAV1で送達によりエクソンスキッピングを誘導することで、FTDで見られるタウ・タンパク質のアイソフォーム比 (4R/3R)の異常を修復。
2. Arbor Biotechnologies/NCBI報告 (Cas13d)

[出典] "
Cas13d Is a Compact RNA-Targeting Type VI CRISPR Effector Positively Modulated by a WYL-Domain-Containing Accessory Protein" Yan WX, Chong S, Zhang H, Makarova KS, Koonin EV, Cheng DR, Scot DA. Molecular Cell. March 15, 2018. Accepted 2018/02/23;Received in revised form 2018/02/21;Received: 2018/02/10
  • MITのFeng Zhanが共同設立者であるスタートアップ企業Arbor Biotechnologiesと、CRISPR-Casシステムの進化と分類を継続してきたNCBIの研究チーム (Kira S. Makarova, Eugene V. Koonin) の共同研究 (例えば、2017年Curr Opin Microbiol.論文 "Diversity, classification and evolution of CRISPR-Cas systems.")
  • CRISPRアレイと相同エフェクターを指標としてデータ量10 Tbを超えるゲノムおよびメタゲノムデータを探索し、293,985のCRISPR-Casシステム候補を含むクラス2 CRISPR-Casシステムのデータベースを構築し、機能性でランク付けした。
  • 2つのHEPNドメインを持ち、既知のタイプVI CRISPR-Casのサブタイプ (A; B; C)と異なる新たなサブタイプVI-Dを同定し、EubacteriumRuminococcusからそれぞれVI-DエフェクターEsCas13dRspCas13dを見出した (注: EsCas13dはSalk研の報告にもあり)。
  • Cas13dは、標的RNA切断とコラテラルなリボヌクレアーゼ活性とを有し、pre-crRNAを切断することを見出した。また、WYLドメインを含むアクセサリータンパク質の存在も見出し、WYLドメインとRHHドメインを帯びたアクセサリータンパク質WYL1がCas13dエフェクターの活性を亢進することを同定した。
このエントリーをはてなブックマークに追加

コメント

コメントフォーム
評価する
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット