出典
- [展望]"Capturing dynamic protein interactions" Li XH, Chavali PL, Babu MM. Science. 2018 Mar 9;359(6380):1105-1106.
- [論文]"Thermal proximity coaggregation for system-wide profiling of protein complex dynamics in cells" Tan CSH, ~ Nordlund P. Science. 2018 Mar 9;359(6380):1170-1177. Published online 2018 Feb 8.
背景
- 近年、定量的プロテオミクス技術の進歩によって、細胞型に特異的なタンパク質間相互作用のスナップショットが蓄積され始めたが、生理学的条件や症状などによって変化するタンパク質間相互作用のダイナミックな様相に関するデータ蓄積は遅れている。
- 細胞サーマル・シフト・アッセイ (CEllular Thermal Shift Assay, CETSA)技術を開発し、薬剤と標的タンパク質との相互作用解析を続けてきたPär Nordlundを中心とする研究チームは今回、CETSAと質量分析 (MS)を組み合わせることで (以下、MS-CETSA)タンパク質間相互作用のダイナミックな変動をハイスループットで同定・解析可能なことを示した。
MS-CETSA
- 熱安定性はタンパク質を特徴付ける分子'指紋'であり、段階的熱変性実験から得られる溶解曲線として表現可能である。一方で、タンパク質の安定性はリガンド結合によるコンフォメーション変化を介して熱安定性が変化する。この変化の程度が相互作用の親和性の強さと相関することから、溶解曲線の比較から親和性の定量化が可能になる。
- 例えば、薬剤候補の化合物で細胞を処理し、細胞溶解物を段階的に加熱し、凝集物を分離し、可溶性画分におけるタンパク質を定量し、タンパク質の溶解曲線を算出し、化合物処理前後の溶解曲線の変化 (シフト)から、化合物がタンパク質の安定性に与えた効果、ひいては、タンパク質への親和性、を判定可能である。
- 溶解曲線は、質量分析 (MS)による定量的プロテオミクス解析を介して、数千のタンパク質についてハイスループットで獲得することが可能である。
TPCA法:CETSAをタンパク質間相互作用解析に展開
- 互いに相互作用するタンパク質は熱変性時に共凝集する傾向があり、温度域全体にわたって可溶性が互いに類似し、したがって溶解曲線も類似している (TPCAシグナチャー)という仮説のもとにしたthermal proximity coaggregation (TPCA)法を開発
- TPCA法は、細胞全体を対象として、また、特段の化学処理を加える必要がなく、プロテオーム・ワイドでの相互作用の検出を可能とする。
- MS-CETSAによってヒト・タンパク質7,693種類について溶解曲線を獲得し、データベースBioGRID, IntActおよびMINT由来の111,776種類の相互作用について、相互作用するタンパク質の溶解曲線相互の類似性が、相互作用しないタンパク質間の溶解曲線の類似性よりも有意に高いことを見出した。また、この傾向は、最新のYH2実験およびアフィニティー精製-MS/MS実験の結果およびCORUNデータベースにおける複合体のサブユニット間の関係でも、裏付けられた([展望]挿入図参照)。
TPCA法による解析例
- DNA複製と同期している (細胞周期のS期にアレストとされている) K562細胞と、同期していないK562細胞のTPCAシグナチャーの比較から、S期に関与するタンパク質複合体として、新奇3種類を含む18種類を同定。
- 6種類の細胞株のTPCAシグナチャーを比較し、細胞株間でのオーバーラップは70%に止まり、各細胞株に特異的なタンパク質間相互作用の存在が示唆された;真核生物開始因子3 (eIF3)のコア複合体のように基本的で豊富な複合体においても、化学量論比と組成の変動が見られた。
- タンパク質複合体の組織特異性の同定も可能であった。
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