出典
  • "Defining essential genes for human pluripotent stem cells by CRISPR–Cas9 screening in haploid cell" Yilmaz A, Peretz M, Aharony A, Sagi I, Benvenisty N. Nat Cell Biol. 16 April 2018.
目的
  • 多能性細胞の多能性は一連の遺伝子群の協働で維持されている。ヘブライ大学の研究チームは今回、ヒト多能性幹細胞 (hPSCs)にとっての必須遺伝子群同定 (’essentialome’同定)を目的として、著者らが2016年に樹立し多能性を備え正常な核型を示すヒトの1倍体胚性幹細胞 (以下、hESC)において18,166種類のタンパク質コーディング遺伝子を対象とするCRISPR-Cas9ゲノムワイド機能喪失スクリーンを行った。
'essentialome'概要
  • 1遺伝子あたり10sgRNAsについて時間経過とともに低減する程度を定量化するCRISPRスコアを定義し、この指標をもとにして、全遺伝子の~9%にあたるhPSCs生存必須遺伝子 (必須遺伝子)と、~5%にあたるhPSCsの増殖抑制遺伝子 (抑制遺伝子)を同定した。
  • また、同一のsgRNAライブラリーを利用してスクリーンした癌細胞の’essentialome’と比較したところ、~3分の1がhESCに特異的であった。
細胞内局在
  • 必須遺伝子も抑制遺伝子も染色体上の分布には偏りが無かったが、コードするタンパク質の細胞内分布は、主として、細胞核とミトコンドリアに偏っていた。すなわち、細胞核とミトコンドリアにそれぞれ66%と12%、続いて、細胞質に8.5%であり、その他は、小胞体、細胞膜、 細胞外マトリックス、細胞骨格およびゴルジ体に分布し、細胞外マトリックスと細胞膜では抑制遺伝子の比率が高かった。
hESC必須/抑制遺伝子と疾患責任遺伝子との相関
  • hESCの必須遺伝子群にはヒト遺伝子疾患と相関し患者で高頻度に変異している遺伝子が多数含まれていた。OMIMに登録されている常染色体劣性 (autosomal-recessive: AR)遺伝疾患2,099責任遺伝子のうち226遺伝子がhESC必須遺伝子であった。ファンコニ貧血の場合、病因変異を起こす15遺伝子のうち14遺伝子がhESC必須遺伝子であり、AR遺伝疾患の5分の1に見られる発育不全が胚形成のごく初期に始まることが示唆された。このように一倍体hESCによって慢性骨髄性白血病由来細胞株KBM7では検出されなかった知見が得られ、一倍体hESCがAR遺伝疾患モデルとしてより適していることも示唆された。
  • 一方で、その常染色体優性遺伝が結節性硬化症や組織の病的肥大と相関する2種類の遺伝子、TSC1TSC2、はhESC抑制遺伝子であった。
'essentialome'と転写因子ネットワークとの相関
  • CRISPRスコアに基づく必須性の判定に遺伝子発現解析も加えて、'essentialome'の~53%が細胞周期ならびにとDNA修復と、21%が転写と、相関することを見出した。また、多能性に関連する転写因子はhESCの増殖と生存に必ずしも必須ではなく、hESCで高発現している必須転写因子7種類 (SALL4POU5F1PRDM14NANOGFOXB1MYBL2およびMYCN)を同定した。
hESC抑制遺伝子から見たhESC増殖におけるP53-mTORパスウエイの役割
  • 腫瘍抑制因子が相反する役割 (細胞増殖生存と細胞成長抑制)を担っていることも見出したが、注目すべきことに、腫瘍抑制因子遺伝子のTP53PTENがhESCの顕著な抑制遺伝子であった。GO機能解析を経てhESC抑制遺伝子がP53シグナル伝達パスウエイ、Wntシグナル伝達パスウエイにエンリッチされ、P53の標的パスウエイのうちIGF1/mTORパスウエイに一連の強いhESC抑制遺伝子がエンリッチされることを見出した。ラパマイシンによるmTORの選択的阻害がhESCsの増殖を阻害したが、IGF1はこの阻害をレスキューすることなく、IGF1がmTORの上流に位置することを示唆した。
  • ラパマイシンによる増殖阻害に対してhESCは、ヒト包皮線維芽細胞および慢性骨髄性白血病由来細胞株KBM7よりも感受性が高く、IGF1/mTORパスウエイが細胞型特異的にhESCの増殖を調節することが示唆された。
[一倍体hPSCs樹立関連論文]