出典
背景
  • Saccharomyces cerevisiaeの必須遺伝子は、全遺伝子~6,000の~17%にあたる1,000種類とされている (Nature, 2002)。
  • トロント大学のB.J AndrewsとC. Booneならびにミネソタ大学のC. L. Myersをリーダとする研究グループは2016年にニ遺伝子間相互作用 (digenic interactions、以下 Di-int)の解析結果をScience誌に発表していたが今回、三遺伝子間相互作用(trigenic interaction、以下 Tri-int)の解析結果を同誌に発表した。
2016年論文
  • 2016年論文では、2,300万を超える酵母二重変異体を研究資源として整備し、個々の遺伝子変異から予測されるよりも適応度が向上する場合の正のDi-int ~35万種類と、予測よりも適応度が低下する場合の負のDi-int ~55万種類が報告されていた。この負の相互作用には、単独では致死に至らない3,000種類を超える非致死遺伝子が関与する合成致死相互相互作用10,000種類が含まれていた。Di-intに起因する合成致死は、遺伝子の必須性が絶対的な属性ではなくコンテクストに依存することを意味する。
2018年論文の手法
  • 今回の2018年論文では、Tri-intが適応度 (コロニー形成性)における負の相互作用に注目して解析した。酵母の二重変異体は~1,800万株であるが三重変異体はその2,000倍の~36億株に及び、三重変異体を網羅的に整備することは非現実的である。
  • 研究グループは、302種類の1遺伝子変異株と151種類の2遺伝子変異株を'query'株として一定の基準 (原論文 Fig.1-A参照)で選抜し、主要な生物学的過程 (biological processes)に関与する遺伝子変異 (192必須遺伝子または990非必須遺伝子の変異)を帯びた1,182変異株を'diagnostic'株として交雑した株 (原論文 Fig.1-B 参照)の適応度を判定した。
2018年論文の成果
  • ~400,000株の二重変異体と~200,000セットの三重変異体の適応度を評価し、負のDi-Int ~9,500組と負のTri-Int 3,200組を同定した。~200,000セットは、可能な三重変異体の∼0.0006%に過ぎないが、Tri-Int に独特な作用が存在することなど明らかになった。
  • 負のTri-Intの3分の2は負のDi-Intを内包しDi-intが細胞生存に中心的な役割を果たしていることが示唆された一方で、負のTri-intの3分の1は負のDi-intとは独立であり、Tri-int 独特の作用が存在することが明らかになった
  • Tri-Intが適応度に与える作用はDi-Intよりも弱いが、いわゆる必須遺伝子がハブとなっているTri-Intは互いに遠縁な細胞過程に属する遺伝子間を橋渡し([展望]挿入図参照)、細胞過程全体におけるTri-Intの広がりがDi-Intの広がりの~100倍以上と見積もられた。
  • 酵母の最小ゲノムは、Di-intTri-int の存在によって、いわゆる必須遺伝子セットよりもはるかに多くの遺伝子セット (全遺伝子の~70%)で構成されると想定される。