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論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

出典
背景
  • アミロイドβ (Aβ)が徐々に蓄積される現象がアルツハイマー症 (AD)の神経病理学的特徴であり、AD進行に関与する。
  • Aβは、アミロイド前駆体タンパク質 (APP)のN末端側のβ-セクレターゼ (BACE-1)による切断 (β切断)に続くC末端側のγ-セクレターゼによる切断 (γ切断)を経て、生成されるが、β切断がこの過程の律速段階になっている。
  • CRISPR/Cas9は、病因変異を編集して疾患の進行を抑制するツールとして有望であるが、神経疾患への展開はこれからである。その原因は、脳における編集効率が低いことやin vivoでの検証といった技術的課題に加えて、変異修復の適用対象が遺伝性の神経変性疾患 (AD, パーキンソン病、ALSの10%未満)に限られており、孤発性AD療法としては試行例がなかった。
成果
  • J. SunとS. Royらウィスコンシン大学マディソン校の研究チームを始めとする米国研究チームは今回、CRISPR/Cas9によって内在APPのC末端を編集することで、β切断の抑制を実現した。また、iPSC由来神経細胞では、神経保護性のsαAPPを生成するα-セクレターゼによるAPP切断 (α切断)を亢進することを見出した。
  • この手法では、APPおよびAPPホモログのN末端は切断されず、生理学的指標も正常のまま維持される。
  • APP編集は、細胞株、培養神経細胞、ヒトES細胞/iPSC由来神経細胞、およびマウス脳で安定に進行する。
  • 著者らが ‘cut and silence’ CRISPR editing と称したこの手法は、Aβに関与するセクレターゼやAβに替えてセクレターゼの基質であるAPPを標的とする新たなAD療法への道が開いたとともに、他の神経変性疾患に関与する変異タンパク質 (BACE、タウ、プレセニリン、α-シヌクレイン、TDP-43など)にも展開可能である。
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