出典
  • Scientists downsize bold plan to make human genome from scratch. Dolgin E. Nature 2018 May 1.
  • Genome ‘writers’ set their first goal: recoding human cells to resist viruses. Begley S. STATS News2018 May 1
  • GP-write Announces ‘Ultra-safe Cells’ as Featured Community Project. GP-write BLOG
経緯
ボストン会合
  • 2018年ボストン会合で、ヒトゲノム全合成を遥かに望む地点から模索されてきたGP-writeの当面の目標が、ヒトゲノムの書き換え(recode)によるウイルス感染耐性を備えた"ultra safe"ヒト細胞株樹立に設定された。ウイルス耐性ヒト細胞株樹立は、2016年当時にヒトゲノム全合成に必要な技術開発のために提案されていたパイロットプロジェクトの一つである。
  • "ultra safe"ヒト細胞株開発は第三者である合成生物学者からも「具体的な応用が見える目標」として評価する声が上がっている。ウイルス・プルーフ"ultra safe"ヒト細胞株によって、ウイルス汚染のリスクを伴わないワクチン、抗体、バイオ医薬品の開発生産や細胞療法が可能になる。
  • GP-writeの資金集めは当初計画に遥かに及ばない状況である。いずれにしても、現時点で10塩基対の合成コストはおよそ1US$と見積もられ、ヒトゲノム30億塩基対を「書く」には天文学的経費を要する。酵母ゲノム全合成 (Sc2.0)に取り組んでいるJef BoekeやCRISPR技術を含む幅広いゲノム工学研究を進めているGeorge Churchらと共にGP-writeプロジェクトをリードしているNancy Kelleyは、「細胞株に焦点を絞ったことで、資金集めに展望が開ける」としている。また、GP-writeのグループは一方で、ウイルス・プルーフ"ultra safe"ヒト細胞株の開発過程で、ゲノム全合成に必要な技術開発とコストダウンを実現していくことを目論んでいる。
  • "ultra safe"ヒト細胞株の開発は、ChurchらによるE. coliの "genomically recoded organism (GRO)" 作出 (Science 2013; Science 2016)、すなわちコドンの書き換え (recode) 、に準拠する。Science 2013 論文は、E. coliを損なうことなくrecodeが可能なことに加え、recodeによってE. coliがバクテリオファージT7ウイルスに対する耐性を獲得したことを報告している。
  • "ultra safe"ヒト細胞株は、「ヒト細胞において、冗長な遺伝暗号について内在コドンを同義コドンに書き換え内在コドンに対応するtRNAを削除しておくと、ヒト・プロテオームの恒常性が維持される一方で、recode前のコドン体系の宿主機構を乗っ取って増殖していたウイルスはrecode後のコドン体系の宿主では必要なタンパク質を発現させることができなくなり、結果的に、ウイルス・プルーフの"ultra safe"ヒト細胞株が実現」という戦略に基づいている。
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