• [論文] "Structural principles of distinct assemblies of the human α4β2 nicotinic receptor" Walsh RM [..] Hibbs RE. Nature 2018 May 2;[EMデータと構造] EMD-7536(3.7Å)/PDB-6CNK: Structure of the 3α2β stiochiometry of the human α4β2 nicotinic receptor.;EMD-7535(3.4Å)/PDB-6CNJ: Structure of the 2α3β stiochiometry of the human α4β2 nicotinic receptor
  • 膨大な数のタンパク質の電顕画像(粒子画像)を重ね合わせる(アライメントする)ことから構造を再構成するクライオ電顕単粒子再構成法にとって、Cys-ループ型受容体ファミリーのように擬似対称なヘテロマーは難題である。粒子画像が低解像度であることに加えて、サブユニットの構成が均一でないためである。加えて、ニコチン性アセチルコリン受容体 (以下、ニコチン受容体) の場合、サブユニットのα-とβ-の2次構造が、低解像度では判別できないほど類似している。
  • UT SouthwesternSLACの研究チームは今回、β-サブユニットに特異的なFab断片を同定・利用し、受容体-Fab複合体を同時精製したサンプルのクライオ電顕解析において、化学量論比がそれぞれ3α:2βと2α:3βの受容体集団を同定した(下図 PDBj万見ブラウザーからの画面キャプチャ参照:(左図) Fabが2個結合した3α:2βニコチン受容体;(右図)Fabが3個結合した2α:3βニコチン受容体)。
α4β2 nicotinic receptor -1
α4β2 nicotinic receptor -2
  • 各サブユニットの全体構造は、大きな細胞外の前庭部位(vestibule)と漏斗状膜貫通部位を備えたシリンダー状の形状をしている (上図参照:(左図) 3α2β受容体;(右図)2α3β受容体)。Fabsは細胞外ドメイン (ECD)と選択的に相互作用し、精製時から含まれていたニコチンは、ECDにおいてサブユニット間のα-β界面とα-α界面に見られた。
  • 3α2β受容体と2α3β受容体はいずれも2つのα-β界面と2つのβ-α界面を有しつつ、それぞれ特有なα-α界面とβーβ界面を有する(原論文 Fig.2 Interface classes参照 )。3α:2βと2α:3β以外の理論的に可能な化学量論比の5量体が観測されない原因は、界面のクラスごとの自由エネルギーの計算や、化学量論比を5αから5βまで組み合わせていくシミュレーションに基づいて、5量体における全ての界面が'好ましい (favorable)'相互作用を維持するには、α-α界面またはβ-β界面が一つに限られるためである、とした。
  • In vivoにおいて3α2β受容体と2α3β受容体の比はコンテクスト依存でありニコチン中毒や遺伝病に相関する。ニコチンが培養細胞において2α3β受容体を上方制御する機構、αサブユニットの特定の部位におけるセリンからロイシンの変異が3α2β受容体への偏りを誘導しひいては夜間前頭葉てんかんに至る機構、アゴニストまたはアゴニスト様分子の結合と結合様式の界面依存性(特に、α-α界面への独特な結合様式)、コレステロールの結合サイトの同定、3α2β受容体と2α3β受容体のカルシウムイオン透過性の構造基盤などが明らかになった。
  • 今回の高分解能なクライオ電顕構造は、ニコチン受容体が関与する中毒や遺伝病の新たな研究基盤である。