出典 
  • "Enhanced efficacy of combined temozolomide and bromodomain inhibitor therapy for gliomas using targeted nanoparticles" Lam FC [..] Floyd SR, Hammond PT. Nat Commun. 2018 May 18;9(1):1991.
概要
  • グリオブラストーマ (glioblastoma: GMB)の効果的治療には、血液脳関門 (BBB)や腫瘍微小環境を越えて腫瘍へ薬剤を効率的に送達する手法と、単剤療法への耐性に対抗する手段が必要である。MITとデューク大学の共同研究チームは今回、リポソームをトランスフェリン (transferrin)で機能化したナノ粒子 (transferrin-functionalized nanoparticle: Tf-NP)を開発し、2種類のGMBモデルマウス (ヒトグリオーマU87MG細胞株またはマウスグリオーマGL261細胞株の頭蓋内移植マウス)において、Tf-NPsがBBBを越えて頭蓋内の腫瘍に直接結合することを実証した。
  • GMBに対する抗癌剤テモゾロミド(TMZ)とブロモドメイン阻害剤JQ1の二剤をTf-NPsを介して投与したGMBモデルマウスでは、DNA損傷と細胞死が亢進し、腫瘍量が1.5から2分の1へと縮減し、偽薬投与マウスに比べて延命効果が見られた。また、免疫応答性を備えているモデルマウスへの投与において、Tf-NPs-GMB薬は全身毒性を示さなかった。
Tf-NPs 
  • ペグ化リポソーム・ナノ粒子を抗癌剤送達の担体として利用する手法はDoxil®など、すでにFDAで認可されている。
  • 研究チームは先行研究 (Sci Signal, 2014)で、Doxil®と同様なPEG化リポソーム粒子であるが、同一リポソームのエンベロープ内と水溶性コア内にそれぞれ疎水性エルロチニブと親水性ドキソルビシンを格納し、リポソーム表面を葉酸 (folate)で修飾することで、二剤を葉酸受容体を発現している腫瘍細胞へと選択的に送達するナノ粒子を開発し、ヒト乳癌細胞株BT-20とヒト肺胞基底上皮腺癌細胞株A549のin vitroおよびそれらの移植マウスモデルin vivoにおいてその抗腫瘍性を実証していた。
  • 研究チームは今回、リポソーム表面を、脳毛細血管内皮とグリオーマ細胞の表面に発現している受容体に結合するリガンドの一種であるトランスフェリンで修飾することで、トランスサイトーシスを介してBBBを越えた薬剤送達を実現した (下図Fig. 4とFig. 1参照、図ではリポソームを長いPEG5000を介してtransferrinで、短いPEG2000介して可視化用蛍光色素Cy5.5で修飾)。
Fig. 4 &1 Table 2
  • さらにTf-NPによるJQ1とTMZそれぞれの単剤投与に比べて2剤送達が相乗的作用で最も効果的に腫瘍を縮減することを見出した(上図 Table 2の右端のカラム; 99.1
    %と99.3%に相当)。