出典
- Targeting wild-type KRAS-amplified gastroesophageal cancer through combined MEK and SHP2 inhibition. Wong GS [..] Catenacci D, Bass AJ. Nat Med. 2018 May 28.
背景
- KRAS遺伝子変異に起因するKARSタンパク質の変異は膵臓癌の97.7%、大腸癌の44.7%および肺癌の30.9%をはじめとして多くの癌にみられ (Table 1 - Nat Rev Drug Discov 2014) 、変異によるKRAS活性の亢進が癌をドライブすることが定説になっている。
- Dana-Farber研究所、シカゴ大学、OncoPlex Diagnostics/NantOmics などの研究グループは今回、KRAS遺伝子のコーディング領域の変異ではなく、野生型KRAS遺伝子の高レベルの増幅によるKRASの活性化に注目した。
- KRAS遺伝子増幅は、食道腺癌、胃腺癌および卵巣腺癌によく見られる。KRAS遺伝子が増幅している胃腺癌モデルはMAPK阻害剤に対して、KRASタンパク質が顕著に過剰発現し、KRAS-GTPレベルが急激に上昇することでMAPK阻害に適応可能となりMAPK阻害剤に対して感受性を示さなくなる。
成果
- 研究グループは今回、KRAS遺伝子増幅癌のMAPK阻害剤への適応能力が、グアニンヌクレオチド交換因子であるSOS1とSOS2 またはチロシンホスファターゼのSHP2 の阻害によって減ずることを見出した (下図はSHP2が制御する細胞内シグナル伝達経路)。
- また、具体的に前述因子を遺伝学的および薬理学的に阻害することで、KRAS遺伝子増幅が起きている癌のMEK阻害に対する感受性がin vitroでもin vivoでも亢進することを見出した。
- KRAS遺伝子のコピー数増加がKRASの活性化を誘導することが明確になり、SHP2とMEKの同時阻害がKRAS遺伝子コピーが増加している癌に対する有効な療法となる可能性が示された。
参考文献・記事
- Nat Rev Drug Discov 2014:"Drugging the undruggable Ras: mission possible?" Cox AD, Fesik SW, Kimmelman AC, Luo J, Der CJ. Nat Rev Drug Discov. 2014 Nov;13(11):828-51. Published online 2014 Oct 17.
- 遺伝子増幅と癌の関係:CRISPRメモ_2018/05/30 - 1 縦列重複の増幅 (コピー数増加)が、癌細胞必須遺伝子のCRISPR-Cas9ドロップアウトスクリーンに偽陽性をもたらす
- 同時阻害:2017-09-28 In vivoでのCRISPRスクリーンで初めて同定できたKRAS変異腫瘍の合成致死遺伝子;2017-04-23 トラメチニブとFGFR阻害剤の併用がKRAS 変異肺がんに有効である
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