出典:"In vivo base editing of post-mitotic sensory cells" Yeh WH, Chiang H, Rees HA, Edge ASB, Liu DR. Nat Commun 2018 June 5.
点変異修復:CRISPR-Cas9 HDRとBase Editor (BE)
- 疾患と相関する遺伝子変異の多くが点変異である。病因となる点変異は、CRISPR-Casシステムと修復のテンプレートとなるDNAを送達することで、細胞に内在する相同組み換え修復(HDR)を介して修復可能にはなった。しかし、HDRは分裂分裂細胞に限られかつNHEJ修復に比して頻度が低く、また、indelsを伴うという問題を伴う。
- David R. Liuらはこれまでに、細胞内在のHDRに依存しない一連の塩基編集法BEs (BE1/2/3/4*, ABE**さらにBE4max, AncBE4max, ABEmax***)を開発して、高効率で高精度な塩基編集が可能なことを実証してきたところ、今回、HDRを介した遺伝子編集が困難な分裂終了細胞においても、BEによるin vivo点変異修復が可能なことを実証した。
- 哺乳類の内耳に位置し聴覚を担っている蝸牛支持細胞や感覚有毛細胞は分裂終止細胞であり、障害、疾患、加齢などによる欠損からは自己再生しない。
- 近年、トランスジェニックマウスにおいて、βカテニンタンパク質の安定化によって、Wntパスウエイを介したシグナル伝達が亢進し、蝸牛支持細胞の増殖が促され、ひいては、支持細胞からの有毛細胞の発生が誘導されることが報告された。
- 下図左Fig. 1-aの右にあるように、Wntが不活性な状態では、細胞質のβカテニンは、グリコーゲン合成酵素キナーゼ3β (GSK-3β)によって特定の位置のセリンとスレオニン残基がリン酸化され、続いて、タンパク質分解に関与するF-boxタンパク質の一種であるβトランスデューシンリピート含有タンパク質 (βーTrCP) で認識され、ユビキチン化を経て、プロテアソームで分解されるに至る。
- 先行研究ではGSK-3β阻害剤とヒストン脱アセチル化酵素阻害剤によるWnt応答遺伝子の上方制御が試みられたが、オフターゲット発現の亢進や発癌性の問題を伴っていた。また、GSK-3βリン酸化の標的サイトを含むβカテンニンの第3エクソンを欠損させたトランスジェニックマウスにおいても、感覚有毛細胞の発生が確認されたが、Wnt活性化が多臓器において癌化を招くため、第3エクソン欠損を内耳に限定することが課題となった。
- 今回、βカテニンの第33残基のセリン (S33)を標的とするBE3システムをRNPとして内耳局所に注入することで、セリンをフェニルアラニンに置換 (S33F)し、Wntを活性からWnt標的遺伝子の発現亢進 (上図左 Fig.1-a右)、ひいては蝸牛支持細胞の分裂を誘導し、感覚有毛細胞発生に至った。S33F置換効率は~31%に達した。一方で、CRISP-Cas9とテンプレートDNAに基づくHDRによる塩基置換法では、S33F置換効率が極めて効率が低い一方で、indesl発生率が顕著に高く、Wntの活性化には至らなかった (上図右 Fig.1-d)。
参考:LiuらのBase Editor関連crips_bio記事と有毛細胞再生論文
- *) 塩基編集法(BE)第4世代へ:BE1, BE2, BE3からBE4へ
- **) D. R. LiuのDNA1塩基編集法”ABE”とF. ZhangのRNA1塩基編集法”REPAIR”
- ***) CRISPRメモ_2018/05/30 - 3 1. 塩基エディターBE4とABEを、BE4max / AncBE4max / ABEmaxへと強化
- "Mammalian cochlear supporting cells can divide and trans-differentiate into hair cells" White PM, Doetzlhofer A, Lee YS, Groves AK, Segil N. Nature. 2006 Jun 22;441(7096):984-7.
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