1.CRISPR-Cas9システムを2細胞期胚にマイクロインジェクションすることで、マウスゲノムへの大規模配列ノックインを実現
  • [出典] "Efficient generation of targeted large insertions by microinjection into two-cell-stage mouse embryos" Gu B, Posfai E,  Rossant J. Nat Biotechnol 2018 June 11;"Efficient generation of targeted large insertions in mouse embryos using 2C-HR-CRISPR" bioRxiv Posted October 16, 2017.
  • CRISPRシステムを2細胞期 (2C)の胚へ導入することで開いた状態のクロマチンと相同組換え(HR)が亢進するG2期を活用する2C-HR-CRISPR法を開発し、高効率な遺伝子編集を実現した。2C-HR-CRISPRにさらに、Cas9に一価ストレプトアビジン (monomeric streptavidin: mSA)を結合し (Cas9-mSA)、HR修復用テンプレートをビオチンで標識することで、Cas9切断部位に修復用テンプレートを集中させる技術を融合し 、ノックイン効率を95%とこれまでの10倍以上まで高めた。
  • 胚盤胞で発現している20種類の内在遺伝子に蛍光タンパク質をノックインし、レポータマウス系統を作出。また、3種類の細胞系譜を識別可能な3色胚盤胞や、オーキシン添加によってタンパク質を迅速分解するオーキシン依存的タンパク質分解系 (auxin inducible degron: AID) を組み込んだタンパク質機能解析に有用な胚を作出した (AIDの利用例はこれまで、酵母、線虫、哺乳類培養細胞に止まり、マウスin vivoでの利用は今回が初めて)。
 Cas9-mSA関連crisp_bio記事
  • CRISPRメモ_2017/11/25 - 2. ビオチン化したssODNをRNAアプタマーを介してCRISPR RNPに結合することで、遺伝子精密編集を実現
2.FLP認識標的配列 (FRT)を帯びた遺伝子ノックアウトコレクションを利用した機能ゲノミクスには、標的遺伝子すべてに共通なFRT-gRNAを利用するCRISPR-FRTがお勧め
  • [出典] "CRISPR-FRT targets shared sites in a knock-out collection for off-the-shelf genome editing" Swings T [..] Lichtarge O, Michiels J. Nat Commun 2018 June 8.
  • CRISPR-FRTを、E. coli遺伝子欠失株Kieoコレクションをもとに開発。Keioコレクションは、ほぼ全ての非必須遺伝子をFRTで挟んだカナマイシン耐性遺伝子カセットで置換してある。このため、FRTを標的とするgRNA (FRT-gRNA)-Cas9とDSB修復のドナーとして変異遺伝子やレポータータンパク質などを利用する相同組換え過程を介して、Keioコレクションをもとに任意の配列を帯びた変異株を作出することが可能になった(下図左 原論文 Fig.1 Overview of the CRISPR-FRT protocol. 参照)。すなわち、関心のある遺伝子ごとにgRNAを用意する必要が無い。
CRISPR-FRT 1 CRISPR-FRT 2
  • Keioコレクションの対象外である必須遺伝子への変異導入も、ほとんどの必須遺伝子に隣接している非必須遺伝子を標的とするCRISPR-FRTによって実現可能である(上図右 原論文 Figure  2-b)。
  • Keioコレクションと同様にFRTを組み込んだコレクションは、Salmonella entericaSaccharomyces cerevisiaeDrosophila melanogaster、ヒト細胞株など多数利用可能である (原論文 Discussion第2段落)。
3.tRNAのプロモーターと3'/5'末端プロセッシングを脱共役することで、組織特異的プロモーターによるCas9 gRNAの発現を実現
  • [出典] "Decoupling tRNA promoter and processing activities enables specific Pol-II Cas9 guide RNA expression" Knapp DJHF [..] Fulga TA. bioRxiv Posted June 8, 2018.
  • 多重なgRNAsとgRNAのポリシストロニック*な単一コンストラクトから、gRNAを内在プロモータによって発現させる手法が開発されているが、gRNAを組織特異的に発現させるためには、Pol-IIプロモータを利用する必要がある。
  • *) ポリシストロニックtRNA-gRNA関連crisp_bio記事:CRISPR関連文献メモ_2016/12/01 - 1. PTG(Polycistronic tRNA and CRISPR guide-RNA)を利用したヒト細胞の効率的多重遺伝子編集
  • tRNAsは内部に、組織特異的ではないPol-IIIプロモーターを帯びているが、研究チームはまず、外部のプロモーター無しで、tRNAs単独でgRNAsの生成が可能なことを確認した。続いて、ヒトtRNAsについて、変異誘発実験により、内在する組織非特異的Pol-IIIプロモーター活性と、5'末端/3'末端プロセッシングに重要な塩基を同定し、Pol-IIIプロモーター活性を最小限にし、プロセッシングを最大限にするtRNA変異体を利用することで、組織特異的なPol-IIプロモーター(具体的にはCMV)により効率的なgRNAの組織特異的生成を実現した。
4.CRSIPRtrack: CRISPRアレイに基づく菌株追跡法の開発と糞便移植後定着微生物叢解析への応用
  • [出典] "CRISPRs for strain tracking and its application to microbiota transplantation data analysis" Lam TJ, Ye Y. bioRxiv Posted 2018 June 11.
  • バクテリアとアーケアが帯びているCRISPR-Casシステムにおいて、免疫記憶としてCRISPRリピートに挿入されたスペーサ群は、バクテリオファージ、プラスミドなど侵入してくるモバイルエレメントとの軍拡競争の中でターンオーバーを繰り返した結果である。すなわち、CRISPRアレイは極めて多様であり、また、個々人の微生物叢が共有しているスペーサは稀である。
  • そこで、CRISPRアレイにもとづく菌株追跡パイプラインを開発し、糞便移植に伴い提供者と受容者の微生物叢の比較解析を試みた。
5.ウミヒドラ(Hydractinia symbiolongicarpus)へのCRISPR/Cas9遺伝子ノックイン
  • [出典] "CRISPR/Cas9-mediated gene knockin in the hydroid Hydractinia symbiolongicarpus" Sanders SM [..] Nicotra ML. bioRxiv Posted June 8, 2018.
  • CRISPR/Cas9が誘導する相同組換え修復過程を介して、真核生物伸長因子1α (Eef1a)遺伝子座へのeGFPとtdTomatoノックイン、その安定した発現と2世代にわたる継承を確認し、また、内在タンパク質へのFLAGまたはStrepII-FLAGタグ付けの実現。